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【日記】電机本舗・由井社長の思い出

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日記
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はじめに

最近、「Windows 10レスキューキットって、今でも販売しているところはありませんか?」というお問い合わせをいただきました。

確かに、あのソフトは Windows 10 の初期トラブルを救ってくれた名作で、今でも必要としている方がいるのはよく分かります。ただ、販売元だった有限会社電机本舗さんは数年前に活動を停止してしまい、公式サイトも閉じられています。

お問い合わせをいただくたびに、「ああ、もうあの会社はないんだな」と、少しだけ胸の奥がざわつくことがあります。

この記事は、電机本舗の代表だった由井清人さん(以下、由井社長)について、僕がメールや原稿のやり取りを通じて感じたことを、個人的な日記としてまとめたものです。
プライベートで深くお付き合いがあったわけでもなく、現場に伺ったことがあるわけでもありません。

あくまで「一緒に仕事をさせていただいた立場からの記憶」として読んでいただければと思います。

7分03秒


■ 電机本舗という会社の空気

電机本舗は、港区高輪のマンションの一室で運営されていた小さなソフトハウスでした。
従業員は 10 名に満たない規模だったと記憶しています(当時のプレスリリースでは『小規模なソフトハウス』と表現されていました)が、そこで作られていた技術は「小規模」という言葉とはまったく結びつかない、本格的なものでした。

代表的な技術として、SRG(ソリトンランダムジェネレータ)という超長周期乱数生成エンジンがあります。
10の27,000乗という超長周期を持ち、NIST SP800-22 の検定を通過した擬似乱数発生装置で、日本特許と米国特許も取得されていました。
この SRG を暗号エンジンとして用いた「People 無限暗号」シリーズは、ワンタイムパッド型の暗号化ソフトとして提供されていました。

マンションの一室から、こうした高度な暗号技術が生まれていたという事実は、今振り返っても印象的です。

規模ではなく技術で勝負していた会社だったと感じています。


■ 僕と由井社長の関わり

僕が由井社長とやり取りをするようになったきっかけは、当時、別サイトで Windows のトラブルや復旧方法について記事を書いていた頃でした。

ちょうどその時期に、電机本舗さんから「Windows 10レスキューキットを発売する」というアナウンスがありました。
その際に、こちらから問い合わせをしたのが先だったのか、あるいは向こうからご連絡をいただいたのが先だったのか──正直なところ、今でははっきり覚えていません。

ただ、やり取りが始まった当初から、由井社長のメールはとても丁寧で、技術に対する真剣さが伝わってくる内容でした。
そこから、Windows 10レスキューキットに関する記事やインタビュー原稿の作成・監修などで、何度かメールでやり取りをさせていただくことになりました。

やり取りの中で印象的だったのは、技術的な説明が非常に具体的で、実際のユーザー環境で起こり得る問題をどう避けるかという視点で語られていたことです。

例えば、次のようなテーマについて詳しく教えていただきました。

  • Windows の I/O タイミングと負荷が高い環境での例外的な挙動
  • DPC Watchdog 関連のタイムアウトとストレージ周りの影響
  • SSD のガベージコレクションとデフラグの関係
  • NTFS の例外処理と、特定条件下でのファイル消失リスク
  • BAD_POOL_HEADER や SYSTEM_THREAD_EXCEPTION_NOT_HANDLED などのエラーの背景

こうした内容は、単に「エラーコードの意味」を説明するだけではなく、実際のユーザー環境で起こり得る問題をどう避けるか、という視点で語られていました。

僕はその姿勢に強いプロフェッショナリズムを感じました。
小さな会社であっても、ここまで深く OS の内部構造やストレージの挙動を理解している技術者がいるのだと知り、刺激を受けたことを覚えています。


■ 量子暗号化に踏み込んだ最後の時期

電机本舗の活動の中で、特に印象に残っているのが、2020年頃に発表された「People 無限暗号 Ver2」に関するプレスリリースです。

そこには「「量子耐性暗号の方向にまで踏み込んだ方向の暗号化システム」という趣旨の説明がありました。従来の公開鍵暗号が量子コンピュータによって破られる可能性が議論される中で、ワンタイムパッド型の暗号と超長周期乱数を組み合わせることで、量子時代を見据えた暗号化を目指していたのだと思います。

マンションの一室から、こうした方向性に踏み込んでいたという事実は、技術者としての視野の広さと、先を見据えた問題意識の強さを感じさせるものでした。

その後、2020年末頃までいくつかのリリースが続きましたが、それ以降は新しい情報が出てこなくなり、公式サイトも閉じられました。現在は、由井社長や電机本舗のその後について、外から確認できる情報はほとんどありません。

僕自身は、由井社長のプライベートな事情や会社の内部事情を知っているわけではありません。
ただ、最後に量子暗号化の方向にまで踏み込んでいたことを思い返すと、もし技術者として続けていく余地があったなら、まだやりたいことがあったのではないか──そんなことを、個人的な想像として静かに考えることがあります。


■ 今、問い合わせを受けて思うこと

「Windows 10レスキューキットは、もうどこかで購入できませんか?」
こうしたお問い合わせをいただくたびに、僕は電机本舗と由井社長のことを思い出します。

あのソフトに助けられた方がいたこと。
その裏側には、OS の深層構造やストレージの挙動を丁寧に追いかけていた技術者の仕事があったこと。
小さな会社でも、本物の技術を作っていた人たちがいたこと。

僕が直接知っているのは、メールでのやり取りと、原稿の監修を通じて垣間見えた一部の側面だけです。
それでも、技術に対する真剣さや、ユーザー環境で起こり得る問題を減らそうとする姿勢は、強く印象に残っています。

この記事は、そうした記憶を、僕なりの言葉で少しだけ残しておこうと思って書いたものです。
実際に電机本舗で働いていた方や、由井社長をよくご存じの方が読まれた場合には、「そういう側面もあったのか」と受け止めていただければ幸いですし、もし事実と異なる点があれば、僕の認識の範囲の限界としてご容赦いただければと思います。


■ おわりに

技術者の名前や小さな会社の歴史は、時間とともにネット上から少しずつ消えていきます。
それでも、誰かが覚えていて、どこかに記録が残っていれば、完全には消えない部分もあると感じています。

僕が覚えている範囲の由井社長の姿は、「小さな会社で、本物の技術を作っていた人」という一言に尽きます。その仕事に触れる機会をいただいたことに、今でも感謝しています。

Windows 10レスキューキットの問い合わせをきっかけに、久しぶりにこうして思い出を書いてみました。

技術者の人生の一端として、どこかの誰かの記憶にも少し残ればうれしく思います。

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